「不動産しか遺産がない」そんな時こそトラブルがいっぱい 遺産分割時の対処法も解説

2020年12月18日
遺産分割の時に相続人間で争いが起こりやすい場合として、土地などの不動産しか遺産がないような場合が挙げられます。今回は土地などの不動産の遺産分割の場面でトラブルになりがちなケースと、その対処法を理系税理士がわかりやすくまとめました。
 
 
土地の評価と遺産分割の方法
土地の遺産分割の話の前提として、遺産分割における土地の評価方法と遺産分割の方法について簡単に解説します。
 
 
■遺産分割における土地の評価方法
できるだけ争いなく、相続人間でより公平な遺産分割を行うためには、その前提として各遺産が遺産分割時点でいくらの価値があるのか評価する必要があります。例えば、遺産に土地がある場合には当該土地の価値(具体的には市場価値)を以下のような方法で評価する必要があります。どの方法で評価するかについては、相続人間で合意できればそれによります。
 
・不動産鑑定士による不動産鑑定評価額
一番客観性及び精度の高い方法ではありますが、不動産鑑定士に依頼して鑑定報酬を支払う必要があります。特に相続人間で大きな争いがないような場合、鑑定報酬を支払ってまで厳密な評価額を出す必要性が乏しく、遺産分割調停等の争いに発展しない場合にはほとんど見かけません。
 
・不動産業者による査定額
客観性及び精度は不動産鑑定士より劣りますが、その分手間とコストはかからないというメリットはあります。遺産分割調停等の争いに発展した場合でもコストをかけたくない依頼者の事情を踏まえて弁護士も不動産業者から無料で査定書を入手するケースも多いと聞きますが、最近は無料で査定書を出してくれない不動産業者も増えてきているようです。
 
・(相続税路線価×地積)÷0.8
相続税の計算に用いられる相続路線価が市場価値(地価公示水準)の8割水準で定められている点に着目した簡便法です。コストはかかりませんが、あくまでも簡便法であり、精度は不動産鑑定士による不動産鑑定評価に比べ劣ります。
 
・固定資産税評価額÷0.7
固定資産税の計算に用いられる固定資産税評価額が市場価値(地価公示水準)の7割水準で定められている点に着目した簡便法です。路線価による計算と同様、コストはかかりませんが、あくまでも簡便法であり、精度は不動産鑑定士による不動産鑑定評価に比べ劣ります。
 
相続税の申告が必要で税理士に依頼しているような場合には、税理士が土地の相続税評価額を算定していますので、それを基に遺産分割することも多いです。ただし、相続税申告に用いる相続税評価額は、被相続人の死亡時点での評価額であり、市場価値の8割水準ですので、厳密に遺産分割で用いる土地の市場価値を表しているとは言えない面はあります。
 
■土地の遺産分割の方法
各遺産の価値を把握した後はその金額を基に相続人間で協議して遺産を分けていくことになりますが、遺産の分け方としては、主に「現物分割」「代償分割」「換価分割」があります。
ここでは、例えば、父が死亡し遺産は土地1筆のみ、母は既に死亡しており、相続人は本人含め兄妹4人だったとして、土地の分け方をそれぞれの方法ごとに解説します。
 
現物分割
現物分割は最も一般的な分割方法であり、本件の場合には土地1筆を4筆に分筆し、相続人4人で分けることになります。
 
代償分割
特定の相続人が遺産を取得する代わりに他の相続人に金銭(代償金)を支払う方法です。本件の場合、相続人の1人が土地1筆を取得し、他3人の相続人に代償金を支払うことになります。
 
換価分割
遺産を売却し、その売却代金を相続人間で分ける方法です。本件の場合、土地1筆を売却し、その売却代金を相続人4人で分けることになります。
 
遺産分割を行わないまま放置すると、相続財産である土地は相続人の共有状態となり、売却には共有者全員の合意が、賃貸するには過半数の合意が必要等、諸々制約が生じ、共有者間で争いに発展しやすいです。また、遺産総額が大きく相続税申告が必要な場合には、遺産分割の方法が税額や税金の負担関係に影響を及ぼしますので、税理士に相談し、各相続人が負担する税額も含めた公平感を考慮して遺産分割する必要があるでしょう。
 
 
不動産を遺産分割する時のトラブル事例
ここでは、実際に自宅などの不動産の遺産分割でトラブルになりやすいケースを3つご紹介します。
 
 
〈ケース1〉
主な相続財産が、被相続人の自宅(築40年の木造家屋とその敷地40平方メートル)しかなく、被相続人と別居の相続人が複数いる場合。
 
敷地が狭く、接道状況にもよりますが、相続人の人数分に分筆して現物分割しようとすると接道義務を満たさず建物が建てられない土地が生じる場合もあり、現物分割によることが困難ですので他の分割方法を検討する必要があります。相続人の中でだれか1人が当該不動産を欲しい方がいて、他の方は欲しがっていないような場合には、代償分割が考えられます。ただし、当該不動産を取得する相続人は他の相続人に自分のポケットマネーから代償金を支払う必要があるので、代償金を支払えるだけのお金を準備できるかが問題となります。
また、相続人全員が当該不動産はいらないような場合には、換価分割が考えられます。ただし、本ケースのような古家付きの場合、市場に売りに出すと建物取壊し前提で土地の価格から建物取壊し費用を控除した金額でしか売れず、思ったより売却代金が得られない場合もあります。
 
 
〈ケース2〉
ケース1と同様、主な相続財産が被相続人の自宅で、被相続人と同居していた相続人はその土地に住み続けたいが、それ以外の相続人が売却を希望している場合。
 
被相続人と同居していた相続人が当該不動産を取得し、他の売却を希望している相続人に代償金を支払う代償分割が考えられます。ただし、ケース1と同様、当該不動産を取得する相続人が、代償金を支払えるだけの資金が準備できるかが問題となります。もしも代償金が準備できないようであれば、他の相続人の売却希望に同意して、換価分割も考えられますが、当然被相続人と同居していた相続人は住む場所がなくなるので、アパート等を借りる必要がでてきます。結局、住みたい相続人と売りたい相続人の折り合いをどうつけるかが難しいケースです。
 
 
〈ケース3〉
主な相続財産は被相続人が住んでいた田舎の自宅であり、相続人全員実家を出ており、実家に戻る気はなく、当該不動産を相続したくないが、売却しようにも売れそうにない場合
 
「売却しようにも売れそうにない」とのことですが、簡単にあきらめずに、以下のようなアクションを起こすことをお勧めします。
 
・複数の不動産者に査定を依頼して売れる可能性を探す
・地方自治体に当該不動産の寄付を受け付けてくれるかも含めて相談に行く
・実家の隣人に購入意思がないか、タダならもらってくれるか等交渉する(売れないと思っていても意外と隣人が欲しがってくれるケースがある)
 
また、相続放棄の期限に間に合うのであれば相続放棄する方法も考えられますが、相続放棄をした場合には、売れない不動産だけでなく他の遺産を全て相続できなくなってしまうので注意が必要です。
 
 
自宅を賃借するセール&リースバックという選択
遺産分割において、相続人間で争いがあり、まったく話し合いにならないような場合には、家庭裁判所の遺産分割の調停又は審判の手続を利用することができますが、このような場合にはできるだけ早く弁護士に相談されることをお勧めします。
 
 
また、トラブルケースでもご紹介したような主な相続財産が自宅しかないような場合には、生前に自宅を売却して現金化しアパート暮らしをする方法もありますが、最近では一旦自宅を不動産業者に売却し、当該不動産業者から自宅を賃借するセール&リースバックを行っている不動産業者も出てきていますので、1つの方法として検討してみるものよいと思います。
 
 
(記事は2020年11月1日時点の情報に基づいています)
 
 
税理士・井上幹康プロフィール
平成22年、IT系上場企業入社し経理実務全般を経験後、平成24年税理士法人トーマツ(現デロイトトーマツ税理士法人)高崎事務所に入社、法人税務顧問、組織再編、IPO支援、M&Aの税務DD業務、セミナー講師、資産税実務を経験。平成30年7月、税理士として独立開業(浦和支部所属)。令和元年、不動産鑑定士論文試験合格。自社株評価、不動産評価に特化した税理士・不動産鑑定士事務所を目指し活動中。
 
 
税理士・井上幹康
 
 
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