なぜそこに駅はできるのか?

2017年1月6日

 2017年3月4日のダイヤ改正で、JR北海道は10駅を廃止する。利用客が少なく今後の増加も見込めず、維持費は老朽化に伴って上昇し続ける。寂しいけれどもやむを得ない。駅の廃止は、地元のわずかな利用客にとってはサービス低下になる。一方で、用もないのに停車する駅を通過するようになることで、路線にとっては列車の所要時間が短くなり、サービス向上につながる。



 鉄道会社にとって駅は収入源である。鉄道会社の輸送サービスの入り口であり出口でもある。一方、路線全体にとって駅は所要時間を低下させる障害物とも言える。鉄道会社にとって駅には利点も欠点もあって、そのバランスの上で成り立っている。乗降客数が少ない時間帯があれば、快速や急行などを設定して通過させてしまう。すべての時間帯で乗降客数が少なければすべての列車を通過させる。こうなると駅は必要ない。廃止だ。



 逆に、乗客が見込める場所には駅を設置する。今回のダイヤ改正ではJR西日本が3月4日に「河戸帆待川駅」「あき亀山駅」「寺家駅」を開業する。3月25日には三陸鉄道が「十府ヶ浦海岸駅」を開業する。JR東日本は4月1日に「郡山富田駅」を開業する。時期は未定だけど、秩父鉄道は3月中に「ソシオ流通センター駅」を完成し開業させる意向だ。



 これら6つの新駅は、鉄道会社が積極的に開業を決めたわけではない。「請願駅」といって、所在地の自治体の要請で作られる駅だ。「自治体が駅を作ってください」と鉄道会社に相談し、建設費用の一部または大部分を自治体が負担する条件で設置が決まる。



 正直なところ、鉄道会社としては駅を増やしたくない。その理由は建設費や路線の信号設備の変更などで初期費用が膨大だから。そして、開業させれば維持費もかかる。乗客が少なければ赤字を抱え込んでしまう。既に大規模団地があるならともかく「これから開発します」という場所に先行投資をする余裕はない。



●JR東海の三河塩津駅はかなり戦略的



 新規開業路線を除くと、近年の新規開業駅のほとんどは請願駅だ。いや、新規開業路線も「請願路線」である。鉄道会社が戦略的に全額費用負担で路線を延伸する例はほとんどない。ただし、駅はいくつかある。膨大な建設費と想定される維持費、路線の所要時間を延ばすという欠点を踏んでも作りたい。そんな駅はかなり戦略的だ。



 その例の1つがJR東海の「三河塩津駅」だ。1988年に東海道本線の蒲郡駅と三ヶ根駅の間に作られた。付近には蒲郡競艇場(BOAT RACE蒲郡)があり、名古屋鉄道の蒲郡競艇場前駅がある。東海道本線は蒲郡競艇場前駅の北隣を通っている。そこに新駅を作った。「名古屋や豊橋から競艇場に通うお客さんをごっそりいただこう」という魂胆が丸見えの、気持ち良いくらいに攻めの姿勢で作られた駅だ。



 今まで豊橋方面から蒲郡競艇場を訪れた観戦客は、東海道本線に乗り、蒲郡駅で名鉄蒲郡線または無料送迎バスに乗り換えていた。名古屋方面から訪れる場合も同様で、東海道本線の蒲郡駅で乗り換えるか、名鉄本線に乗り、新安城駅で名鉄の西尾線、蒲郡線に乗るか、名鉄本線の東岡崎駅から無料送迎バスに乗り換えた。三河塩津駅開業後、豊橋からも名古屋からも、東海道本線で乗り換えなしで行ける。



 三河塩津駅という思わぬ伏兵の登場で、名鉄蒲郡線は窮地(きゅうち)に立たされた。元々乗降客数が少ない上に、まとまった集客がある競艇場の観戦客まで奪われた。おかげで名鉄蒲郡線は廃止論議がくすぶっている。



●JR西日本の「摩耶駅」は阪急と阪神を意識



 JR西日本にも戦略的な新駅がある。2016年3月のダイヤ改正に合わせて開業した「摩耶駅」だ。東海道本線の六甲道駅と灘駅の間にある。周辺は市街地で、元々需要が高そうな地域である。北西方向約600メートルの距離に阪急電鉄の王子公園駅があり、南へ約250メートルの距離に阪神電鉄の西灘駅がある。明らかに、北と南のライバルのお客さんをいただこう、という位置だ。



 こんな市街地に駅を作ろうとすれば、用地確保が問題になる。しかし幸いなことに、ここはかつて貨物駅があった。貨物扱い終了後は信号場として、貨物列車や回送列車が待避し、旅客列車を先行させるなどの用途もあった。その余地のおかげで用地問題をクリアして駅を設置できた。東海道本線のこのあたりは複々線となっていて、プラットホームは各駅停車用の線路のみ設置されている。建設費の約40億円はJR西日本が負担している。



 この駅が戦略的な理由はもう1つある。駅の両側に渡り線を作り、西側の神戸方面、東側の大阪方面へ折り返し運転を可能にした。この駅が始発終着となる列車はないけれど、事故などで運休区間ができた場合に折り返し運転ができるため、稼働区間を長く取れる。



●新駅を作る条件



 戦略的に新駅を作る場合、乗客数の見込みが重要になる。先に挙げた三河塩津駅の場合、一日平均乗車人員は1350人(2010年)だった。隣接する名鉄の蒲郡競艇場前駅は148人(同)で、JR東海の三河塩津駅の方が約9倍の集客だ。



 この両駅だけ見れば三河塩津駅の圧勝だけど、JR東海の中で比較すれば、乗降客数2000人以下はかなり少ない。しかし、蒲郡競艇場前駅の実績をにらんだ見込みだったはずだから、この結果も予測済みだろう。逆に考えると、JR東海は乗車人員2000人未満でも駅を設置できると言えそうだ。



 もう1つ、両隣の駅との位置関係も重要だ。隣の駅とは離れているほうがいい。近接しすぎていると列車は十分に加速できず、路線全体の所要時間を延ばしてしまう。最も良い方法は各駅停車が待避して急行に追い越させる構造にする。しかし設備が大きくなり建設費に跳ね返る。隣り合う駅からの徒歩圏が重複すると、隣の駅の乗客が減ってしまう。



 摩耶駅の場合、東側の六甲道駅とは約1.4キロメートル離れている。これは大都市の電車の区間としては一般的だ。しかし、西側の灘駅とは約0.9キロメートルだ。1キロメートルを下回ると、やや短い印象がある。8両編成の通勤電車は1両が約20メートル。8両で160メートル。駅間距離は列車の約5.6編成分だ。



 東海道新幹線は約25メートルの車両が16両だから約400メートル。つまり、灘駅~摩耶駅間は東海道新幹線2編成とちょっと、という距離になる。徒歩で15分くらいだ。隣の駅まで1キロメートル未満だと、さすがに近すぎる感がある。



 JR西日本としても、本当は両隣の駅の中間地点に駅を作りたかったはずだ。しかしこれは用地に依存する決定である。しかたない。隣の駅まで0.9キロメートルだけ電車に乗る人はほとんどいない。神戸、大阪、あるいはもっと遠くへ向かう人のための駅だと割り切るしかない。それが戦略というものだ。



●駅を増やす可能性、駅を残す可能性



 三河塩津駅と摩耶駅、たった2つのサンプルだけでは判断しかねるとはいえ、駅を設置可能な最低限の条件はうかがえる。乗客数が2000人を下回ってもいいし、駅間距離が1キロメートルを切っても駅を作れる。ただし、そのままの条件ではなく、ほかに按分すべき材料があれば、という話になる。



 それでも、新駅を設置する可能性は見えた。駅間距離で言えば、JRグループが国鉄から引き継いだ幹線は大手私鉄より長い。なぜなら、国鉄時代に作られた幹線は蒸気機関車の運転を前提にしているからだ。蒸気機関車と客車の組み合わせは、加速に時間がかかり、ブレーキの性能も電車より低い。効率良く走らせようとすれば、駅間距離は長く取りたい。



 しかし、電車の場合は発車も停車も素早い。だから駅間距離を詰められる。旧国鉄の本線に比べて、併走する私鉄の駅間が短い。これはもちろん、長距離都市間輸送の国鉄路線と、地域密着型の電鉄線という役割分担も一因だ。しかし、そうなった背景には、蒸気機関車前提の路線と電車前提の路線という違いもある。



 何が言いたいかというと、蒸気機関車が一掃され、電車のみになった旧国鉄幹線は、駅間距離をもっと詰められる。つまり、新駅設置の可能性がある。自治体が請願駅を要請すれば、確かにコストは下げられる。しかし、JRは多角経営が可能だから、かつて阪急や東急がやったように、沿線開発込みで駅を設置し、不動産と運輸収入の総取りを狙うという戦略が成立する。分かりやすい例が山手線、京浜東北線の田町駅~品川駅間の新駅だ。



 旧国鉄幹線で、大都市に近く、駅間距離が長い地域。ここにはチャンスがある。



 自治体が沿線開発込みで請願駅を作る場合はどうか。建設費を負担するといっても、鉄道会社が積極的になってくれない。そんなときは、駅だけ上下分離という提案はどうか。そもそも、空港も港湾も、欲する自治体が整備するにもかかわらず、駅だけが鉄道会社負担とは不公平だ……という考え方もある。駅の建設、維持などはすべて自治体側で所有、運営し、鉄道会社は乗降客数に応じた駅施設使用料を支払う。これなら鉄道会社の負担は小さく、駅の設置のハードルを下げられる。



 この考え方は、駅の設置だけではなく、廃止検討中の駅の見直しにも通用する。お客が少ないから廃止ではなく、駅周辺の利益を含めた開発に鉄道会社も参画する。もう一踏ん張りすれば、現在は過疎な駅でも、もしかしたら可能性がありそうだ。駅は財産である。簡単に手放してはいけない。



(杉山淳一)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170106-00000017-zdn_mkt-bus_all