アジアを狙う東急のまちづくり戦略。「田園都市」がまるごと輸出で東急バスも

2018年11月2日

東急グループといえば、9月13日に開業した「渋谷ストリーム」など、渋谷駅の都市開発や田園都市線沿線のベッドタウンのまちづくりなどをイメージする人が多いだろうが、実は最近、タイを初めとした東南アジア諸国でも東急グループが主導する大型の「東急流まちづくり」が各地で行われているのをご存知だろうか?

その一つが、遡ることおよそ半年前。5月23日に渋谷のホテルで開催された発表会である。

◆タイ各地で華ひらく「東急流」のマンション開発



 5月23日に行われたのは、タイ・バンコク市での、タワーマンション建設などを含む大型の住宅分譲プロジェクトだった。



 これまで永年に亘ってタイ各地での開発事業に携わってきた東急グループだが、2014年からは、タイ大手財閥「サハグループ」と合弁会社「サハ東急コーポレーション」を設立し、大型賃貸住宅をバンコク都市圏南部のシラチャに開発するなど、本格的な不動産開発・まちづくり事業にも乗り出していた。



 この大型開発は、タイ大手の不動産デベロッパー「Sansiri Public Company Limited」(以下、サンシリ社)との提携第2弾・第3弾となるもの。東急グループは昨年8月にサンシリ社の合弁で「Siri TK One Company Limited」を設立しており、同社との分譲住宅第1弾となった「taka HAUS」(269戸、マンションタイプ)は、すでに大半の物件が売約済みとなっている。



 提携第2弾となる「(仮称)エカマイ11」は2021年の完成予定で、地上38階建、約550戸の高層コンドミニアム。いわゆる「タワーマンション」タイプで、東急グループがタイ国内でタワーマンションを建設するのはこれが初のこととなる。

建設予定地近隣は、高架鉄道の駅や大型ファッションビル、映画館、日系スーパー(マックスバリュ、UFMフジスーパー)も多数進出するバンコク有数の商業集積地であり、都心部での最先端のライフスタイルを望む「20~30代の若年層」の入居を想定。また、提携第3弾となる「(仮称)スクムビット50」は2019年の完成予定で、地上8階建2棟、合計約400戸の低層コンドミニアム。コンセプトに「都市における特別な安らぎの空間」を掲げ、都心に通勤するタイ人の入居や、外国人駐在員への賃貸を目的とするタイ人・外国人投資家の購入を想定しているという。



 このとき発表されたような開発の特徴として挙げられるのが、東急グループが日本国内の都心部で手がけている「マンション開発ノウハウ」が存分に生かされているということだ。



 東急電鉄の星野取締役専務によると、今回の開発の目標は「バンコクにおいても(日本国内の)都心のタワーマンションと同様に『職住近接』という新たなライフスタイルの提案をおこなう」こと。両物件は「都心部へのアクセスが良好」という点をウリにしており、都市化による人口増加と自動車の普及により交通事情が悪化しているバンコク市においても日本国内で見られるような「マンションに転居することによる都心回帰」の動きを生み出すことが狙いだ。また、日本国内の東急グループの高級マンションでも見られるような、住民専用の「図書室」や「ジム」などといった共用設備も充実させる予定で、こうした「日本流」「東急流」のマンションライフスタイルを提供することも目標としている。

東急電鉄の須山国際事業部都市開発部担当部長は「(日本人駐在員家族も多いという立地条件から)日本人の方が求めるものを提供しやすい、運んでくれるような会社、仮に東急百貨店であれば使うだろうし、より近い日系スーパーにもお願いするかもしれない」「お客様視点で一番いいものを提供したい」と述べ、近隣エリアの施設と提携するかたちで「東急ならでは」の新サービスをおこなう可能性についても示唆された。

◆約40年近くに及ぶタイと東急の「縁」



 さて、それでは東急グループがこれほどタイ、そして東南アジアに力を入れるのは何故であろうか。



 高度成長期からバブル期にかけては、多くの日系デベロッパーが東南アジアへと進出していった。しかし、その多くが、現地でのホテル・リゾート開発や、観光客向け・もしくは現地で働く日本人向けの商業施設・飲食店の運営などだった。そうしたものは、バブル崩壊やアジア通貨危機などにより撤退を余儀なくされたものも少なくない。



 そのなかでも少し異色だったのが東急グループだ。東急グループがタイに本格進出したのは40年近く前、1981年のこと。しかも大型リゾート開発ではなく、タイの大手ゼネコン・チョウカンチャン社との合弁で「チョウカンチャン東急建設」を設立したことがきっかけだった。さらに、1985年には大型百貨店の「バンコク東急百貨店」を出店。当初はタイに住む日本人と現地の富裕層であったが、経済成長とともに客層は一般市民にまで拡大、人気店となった。バンコクでは、1980年代にジャスコ(現:イオングループ)、富士スーパー(富士シティオ)なども進出、その後、多くの日系小売店や飲食店がタイへと進出する基礎を築くこととなったが、電鉄系流通企業の本格進出は東急グループが初であった。



 東急グループによると、こうした海外進出は元々「環太平洋圏の中に2つの拠点を置き、(特に流通事業において)ネットワークを構築する」という考え方に基づいたもので、その1か所がハワイ、もう1か所がタイを含むASEAN地域であったという。

そのうち、ハワイは東急グループ創業家で当時会長であった五島昇氏とハワイ王族の末裔がゴルフ場で知り合ったことが、タイはチョウチャンカン社の社長の息子が日本に留学していたことが進出のきっかけの1つとなっており、どちらも小さな「人と人との繋がり」が大きな事業に繋がる一因であったとも言える。



 ハワイでの事業については、残念ながら2000年代以降にリゾート、流通とも一部を除いた大部分が東急の資本を離れているが、タイでの事業は国内を飛び出し東南アジア各地の事業へと拡大、アジア金融危機を乗り越えて現在も成長を続けている。その大きな要因は言うまでもなく、東南アジアが「東急グループが蓄積したノウハウを生かした『まちづくり』をおこなえる市場」であったことだ。

◆「田園都市」や「ブランズ」をアジア各地へ「輸出」



 東急グループは永年に亘って、都市の拡大に合わせるかたちで沿線に新興住宅地を開発、商業施設や交通インフラを一体的に整備するというまちづくりを得意としてきた。同グループが大正時代から手掛けてきた、鉄道を建設してその沿線に沿って新たな街を建設するという「日本型の田園都市計画」はその代表格だ。



 高度成長期にはそうした東急流のまちづくりは更に広がりを見せ、北海道から九州までの全国各地でニュータウンや商業施設の開発に参画、時には各地方の交通企業を傘下に収めるなどして交通インフラとの一体整備もおこなってきた。



 しかし時は流れ、少子高齢化と大都市圏の都心回帰が起きるなか、国内における21世紀以降の東急グループのまちづくりといえば、渋谷をはじめとした都心エリアの再開発と古い郊外ニュータウンの再構築に重点が置かれるようになってきている。



 一方で、過去に蓄積された東急グループのまちづくりノウハウは、成長が続くタイ、そして東南アジア各地で華開いている。



 現在、東急グループはタイのほかにもベトナム、インドネシアなどでも大型開発事業に参画。大都市エリアでは日本でもお馴染みとなった東急不動産の分譲マンション「ブランズ」シリーズの展開もおこなっているほか、近郊エリアでは「田園都市計画」のような総合的まちづくり事業にも参入している。

◆ベトナム版「田園都市」では「東急バス」も運行!



 東急グループの東南アジアにおける総合都市開発の「代表格」といえるのが、タイにも近いベトナム南部・ホーチミン都市圏の郊外にあたるビンズン省でおこなわれている「東急ビンズンガーデンシティ」事業だ。



 この事業は東急グループが自然豊かなホーチミンの郊外地域に約110ヘクタールの敷地に1000億円規模を投じてマンション「SORAガーデンズ」、都市公園「SORA PARK」、分譲住宅などを建設する大型都市開発。東急が手掛けるのは住宅開発事業のみに留まらず、ガーデンシティ内で商業施設「hikari」を運営するほか、そこを拠点としてガーデン内外への路線バス「KAZEシャトル」も運行している。



地域の中心となる場所に交通結節点を造り、そこに商業施設や公園を建設するというまちづくりの手法はまさに「東急のお家芸」だ。



 このKAZEシャトルを運行するのは東急バスとベトナム企業「ベカメックスIDC」との合弁で2014年に設立された「ベカメックス東急バス」で、運賃は従来の現地バスの約2倍(日本円で50~60円程度)ながら、日本国内の東急バスと同様に時刻表どおりの高頻度運行をおこなっているとあって好評を博しているという。



 ところで、東急グループが東南アジアで「路線バス事業」に参入した例があるならば、「鉄道事業への参入はないのか?」と気になる読者もいるであろう。

東急電鉄の星野専務によると、残念ながらタイ、そして東南アジアなど海外地域での鉄道事業への新規参入に関しては採算性の面から検討していないという。一方で、都市化と自動車の普及が急速に進む東南アジアでは、各地で新たな鉄道路線の建設や在来線の通勤輸送対応化がおこなわれており、なかでもJR東日本や住友商事は多くの鉄道新設事業への入札を行っている。こうした動きのなか、東急グループも「自社主導での鉄道運営はしない」としながらも、建築面での技術提供など何らかのかたちでの事業参画は行っていくとしており、今後はバスのみならず、東急グループの技術を活かした鉄道網が世界へと広がっていくことも期待したい。



 東急グループの前身となった不動産開発会社「田園都市株式会社」が設立されてから、今年でちょうど100年。最初の開通区間となった現在の目黒線の開通からは95年を迎える。



 高度成長期に日本各地へと広がった「東急流」のまちづくりは、東南アジア各地、そして世界へと広がりを見せ、各国の市場に合わせるかたちで新たな発展を遂げようとしている。



 近い将来、新たな「田園調布」が東南アジア各地に誕生しているかも知れない。



<取材・撮影・文/淡川雄太 若杉優貴(都市商業研究所)>

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181102-00177782-hbolz-soci