オープンデータ活用で不動産の“素”の価値を算出

2018年6月22日

国内でデジタル化が遅れている産業の一つと言われてきた不動産業界で、最先端のテクノロジー活用が進みつつある。人工知能(AI)を活用した不動産価格の分析、VR(仮想現実)技術やスマートフォンを用いた物件の内覧、不動産会社の店舗に出向かずインターネット電話を介して物件の重要事項説明(重説)を受けられる「IT重説」など、この1~2年のうちにさまざまな「不動産テック」が着実に広がり始めている。




 そうした不動産テックのなかで、業界の注目を集めているサービスがある。データベースマーケティングを手掛けるベンチャー「おたに」の創業者、小谷祐一朗氏が開発した不動産価格予測サービス「GEEO(ジーオ)」だ。さまざまな要因が価格に影響をおよぼすために値ごろ感を判断するのが難しい不動産の価格を、独自開発した統計解析のアルゴリズムによって、物件ごとにピンポイントで推計する。

 

小谷氏は2014年11月、建物の構造や建築年などから不動産の予測成約価格を算出する機能を、主に一般の消費者を対象に無料公開して以来、地価の推定や建物の原価算出などGEEOの機能を拡充し続けてきた。最近は、GEEOの業務利用を始めた不動産会社もある。また大手不動産会社の中には、多数のGEEOのアカウントを取得するところも出てきている。





 GEEOの名称に見覚えのある人がいるかもしれない。複数のビジネス誌がしばしば、不動産関連の特集記事でGEEOを用いた将来予測を展開しているためである。例えば、週刊現代の「10年後に土地の値段が上がる駅・下がる駅」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52457)では、全国の主要776駅の地価の騰落をGEEOで予測した。

■ 不動産の“素”の価値をはじき出す





 GEEOの特徴は、国勢調査や住宅・土地統計調査、地価公示など官公庁や地方自治体が公開している多様な「オープンデータ」を活用している点である。政府が旗を振り、オープンデータを社会課題の解決や経済活性化に役立てようとする動きは数年前から徐々に始まった。GEEOはオープンデータにいち早く着目して実現した不動産テックの一つだ。





 一般的な不動産の価格査定は、部屋の広さや間取り、最寄り駅からの距離など条件が似た複数の物件の現在の売出価格や過去の成約価格を参考にして価格を算出する。これに対してGEEOは、物件所在地の人口や世帯の動向などを考慮しながら、地価や建物の原価を予測して不動産の成約価格を推計する。売り主が「売却したい」金額、あるいは買い主が「購入しても良い」と最終的に判断した金額と異なり、不動産が本来持っているであろう“素”の価値を、物価変動を加味したうえではじき出す。

建物の原価を算出する機能を持っているため、GEEOは住宅だけでなく商業ビル、ホテル、工場、倉庫、病院など幅広い物件の価格を予測可能だ。さらに、参照できる過去の取引実績や売出物件がほとんどない地域の不動産価格も、地価公示、建物の構造や建築年などを基に推計できる。





 GEEOを使ってピンポイントで予測可能な既存物件は現在、全国で約6000万件。建物のカバー率は96.2%だという。取引が活発でない地域を含め全国規模で不動産価格を算出するサービスは極めて珍しい。





■ 物件所在地のブランド力を価格に反映





 GEEOは、利用者がWebブラウザに表示された地図上の建物をマウスで指定すると、土地価格や建物価格を算出して表示する。このとき、人口動態や地価公示など膨大な量のデータと位置情報を関連付けて分析することで、建物の種別(中古マンションや戸建て)や構造(鉄筋コンクリート造や木造)を自動で判断したり、建築面積を算出したりする仕組みになっている。





 GEEOは各種オープンデータと位置情報を組み合わせた分析によって、売り主や買い主、不動産会社の恣意性を極力排した価格予測を可能にした。





 例えば、最寄り駅の扱い方。物件所在地の住所が同じ「東京都大田区田園調布」であっても、最寄り駅が東急線の田園調布駅かそうでないかによって不動産の価値は本来違うはず。駅まで徒歩5分以内や10分以内といった大ざっぱな距離感ではなく、道路距離が400メートル(徒歩5分)か、480メートル(徒歩6分)か、720メートル(徒歩9分)かによっても少しずつ変わってくるはずだ。

対象物件から同一距離の半径内に複数の駅がある場合、「2駅利用可能」として人気の高い駅が含まれる形で不動産の価値を判断することがよくある。これに対してGEEOは、道路距離が最も短い駅を最寄り駅と扱い、物件所在地が持つブランド力を不動産価格に反映する。

■ サービスの継続性を担保するためオープンデータを採用





 小谷氏はもともと米国の大学院でデータベースマーケティングを学んだデータサイエンティストである。不動産取引において、売り主や不動産会社に比べて限られた情報しか持たない買い主が、多額の借り入れをして不動産を購入しなければならない産業は不健全だと考え、買い主が不動産の相場観を把握する一つの指標を提供する狙いでGEEOを単独で開発した。





 その際、オープンデータを全面的に活用することにした最大の理由は、サービスの継続性を担保するためである。





 不動産の価格をAIで予測するサービスはほかにもある。その多くは、インターネット上の情報を自動収集する「クローラー」を使い、大手の不動産情報サイトから集めた物件情報を参照しているものとみられる。





 この方法だと最悪の場合、サービスそのものの停止に追い込まれる可能性がある。サイトの負荷が高まるのを敬遠する不動産情報サイトの運営者によって、クローラーによるアクセスをブロックされる恐れがあるからだ。そうなれば、価格を予測するのに十分なデータを集められなくなる。その点、官公庁や地方自治体が公開しているオープンデータは「アクセスを制限されるようなリスクがほぼない」(小谷氏)。

GEEOは「誰もが簡単に想像できるような単純な仕組みではない」ため、まったく同じデータを使ったとしてもGEEOを「真似するのは難しい」という。それでもサービスの根幹にかかわることであるため、価格の算出に用いるオープンデータの種類、建物の種別や構造を自動判別する仕組み、統計解析アルゴリズムそのものは非公開にしている。





 小谷氏は自ら多くの文献を読んで、学術論文で立証された理論や地図画像の解析手法などをアルゴリズムに取り入れ、試行錯誤を重ねてGEEOの信頼性を高めてきた。その結果、複数の物件の市場価格とGEEOで推計したそれらの物件の推定価格をまとめて比較した際の正確度は最高で97%を達成し、高い精度で予測できるようになったという。

栗原 雅

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180622-00053376-jbpressz-bus_all&p=1