コロナショック真っ只中に「不動産」で独立してしまった元日本No.1営業マンの“涙と笑顔の理由”

2021年3月19日
2020年の2月頃から日本でも猛威を振るった新型コロナウイルス感染症は、飲食店を始め様々な業界に大打撃を与えることになった。この渦中で、不運なことに独立・起業するタイミングだった人はその後どうなったのか。
 
本記事では、中古ワンルーム不動産販売業で日本No1のセールスを誇り、2020年2月に満を持して同業にて独立した天田浩平氏にその顛末と不動産業界の動静を取材した。(取材・文:遠山怜)
 
危機は緊急事態宣言とともにやってきた
「天田さん、正直うちはもうやばいよ。このまま緊急事態宣言が続いたら、もう持たないよ」。電話口でそう話すのは、同じく中古ワンルーム不動産業界で活躍する顔なじみの社長だ。
 
2020年2月頃から日本にも忍び寄ってきたコロナウイルス感染症は、蔓延当初こそ中国のいち地方で起きた対岸の火事だったが、3月も末頃になるといよいよ日本でも世間の認識に危機感が混じり始めた。そして、4月に緊急事態宣言が発令されると、様相は一変した。
 
不動産業界に暗い影を落としたのは、何と言っても宣言下における各金融機関の融資制限、操業停止の判断だ。不動産を売れない状態に各社追い込まれていたのだ。
 
また、金融機関が動かないとあれば、会社自体も商品である不動産の仕入れもできなくなるため、売る商品もいずれは底を付く。仕入れと販売の両輪が止まれば、その先に困窮が待っているのは当然のことだった。
 
電話の向こうの社長は続ける。「でも天田さんはラッキーだよ。会社は実働はしてなかったんでしょ?ダメージはまだ少ないよ」。事実、私の会社はその年の2月には創業していたが、秋口までは新卒からお世話になっていた会社で社員として営業を続けると決めていたのだ。
 
仕入れた物件もなければ、給料を支払うべき社員もまだいないため、かかる費用は事務所の家賃程度で済んでいるのは不幸中の幸いだ。
 
しかし緊急事態宣言が延長され金融機関の引き締めが続くならば、中古ワンルームマンション販売で経営者になる夢は消えるだろう。独立すると会社に宣言した以上、このまま残留することも難しい。
 
それならばいっそ、事の始末として不動産投資の講師にでもなろうか。自分がこれまで積み上げてきた実績を思えば、それは心が揺れる選択肢だった。
 
最高の状態で独立したはずだったのに
 
遡ること3年前である2018年、営業活動の一環でお客様に会うたびにあることを言われていた。「で、天田さんはいつ独立するの?」。
 
その当時、私は中古ワンルーム不動産販売の営業マンとして業界トップクラスの営業成績を残していた。毎年順調に販売数を増やし、年間100戸程度の販売で頭打ちになっている同僚を尻目に、その3倍を超える366戸売っていたからだ。これが自分の限界だと思っていなかった。
 
お客様のそうした言葉を真剣に考え始めたのも、その1年後の2019年に自己最高実績である年間387戸の販売記録を達成した頃だった。自分の時間の全てを捧げても、もうこれ以上は難しいだろう。
 
毎年、前年比と同じくらいの実績を得るだけだ。そう悟ってからはこれ以上前に進もうという気持ちがスッと消えた。この道を前進するだけではなく、違う道を行こう。私は第二章の道を歩み始めることにした。
 
独立すると会社に申し出ると、内心は反発されるかとも身構えていたが、過去の貢献もあってか最終的には独立を容認してくれることになった。しかも、自分で新規開拓した顧客600人に関してはそのまま引き継いでいいという許しを得られた。
 
独立を宣言した際のお客様の反応も上々。「絶対独立すると思ってました。応援します」と言われた時には、胸に込み上げてきたものがあった。
 
今の会社で別の担当者を付けることもできるんですよ、と一か八か念押しして聞いてみた時も、「あなたが良くて買っていたのだから着いていきますよ」と言ってくれたお客様もいた。
 
実業家・内藤忍氏が協力してくれた影響も大きい。もともと同氏の紹介で多数のお客様を獲得していたこともあり、独立を機に付き合いがなくなれば、独立先での営業に暗雲が立ち込める可能性があった。
 
もし独立以降は付き合いをしないと言われたら、諦めて大人しく引きさがろうーそう頭の裏でそろばんを静かに弾きながら独立の挨拶に向かうと、彼はあっさりこう言ってくれた。
 
「私はあなたの所属会社ではなく、天田さんを応援していたんです。独立後もお付き合いさせてください」。
 
もうこれ以上、最善の独立環境はないだろう。全ては前途洋々、のはずだった。
 
コロナ拡大により業界は大ダメージ
 
不動産業界でのコロナショックの大きさは凄まじいものだった。
 
2020年の2月・3月は通常通りの販売実績を保っていたが、4月に入ると不動産を購入したいというお客様の熱が明らかに冷めてしまったのだ。東日本大震災の際もしばらくは自粛ムードになったように、非常時になると投資の勢いは一時的に足踏み状態になる。
 
また、業界的に対面営業が主流だったため、リモートでの営業に上手く切り替えができなかった影響も大きい。オンラインでは思ったほどこちらの熱が伝わらず、これまでに感じたことのなかった歯がゆい思いを何度もした。
 
コロナ禍になってお客様の反応は様々だったが、「みんな騒ぎすぎじゃない?大げさだよね」と楽観的な人もいたことも確かだ。そうした投資熱の高い方への営業で何とか食いつないでいたが、それでも結果として、会社全体の利益は前年比の半分近くまで落ち込んだ。
 
私自身も対面ほど営業の手応えもなく、同じく前年比の半数に営業成績は留まることになった。昨年の成績を思えば散々たる結果だったが、悲嘆している場合ではなかった。金融機関が通常営業に戻った5月以降は、新しく仕入れた物件の販売に勤しむことにした。
 
空き時間になると、懇意にさせてもらっている同業他社の社長への相談は欠かさなかった。どこに電話しても今は厳しいという言葉しか聞かなかったが、その言葉を聞くたびに自分にも問いかけていた。自分は独立する意思が本当にあるのか?
 
不動産業界で困窮し、不動産物件に助けられる
会社の固定費が軽微な状態だったとはいえ、事務所の家賃だけは発生する。そうした最中でも私は何とか自分の会社を手放さずにいられた。その理由はやはり不動産のおかげだった。
 
実はサラリーマンとして中古ワンルーム販売の営業を手がける傍ら、自分でも都内を中心に区分マンション13室、一棟物件6棟、合計88室を所有し、大家業もしていたのだ。
 
最初の1室は営業マンとして自分自身が購入していないとお客様への説得力に欠けるという思いで購入したが、徐々に自分で不動産投資することの面白さと収益の手堅さを実感し、独立前から少しづつ所有物件を増やしていたのだ。これが私を助けることに繋がった。
 
意外に思われるかもしれないが、東京の中古ワンルームにおける家賃収入はコロナウイルス感染症拡大の影響をさほど受けていない。
 
というのも、不動産賃料の下落が起きる理由は、そのエリアに住みたい人が減る、つまり人口の減少によって賃貸物件が余り、需給バランスが崩れることで賃料が下がるからで、不動産価格が下落する理由は金融機関による融資の引き締めが起き、大量の物件が市場に売りに出されたことに由来すると過去の経験からわかっている。
 
例を挙げると東日本大震災の際は、原発事故による放射能の影響が東京一帯を覆っていたため、多数の外国人労働者が日本から一斉退去したのが供給>需要になった一番の要因だ。
 
リーマンショックの際には、銀行の融資引き締めが行われたため資金繰りに困った個人投資家や、不動産業者が物件を手放し、供給の量が増えた影響が大きい。その当時、私も築浅の良物件が格安で売りに出されていたのを覚えている。
 
今回の緊急事態宣言中に様子を伺った中でも、かつてのリーマンショックと震災を経験した社長は腹を括っていたのが印象的だ。
 
「金融機関の引き締めが一時的なものだろうから、この数ヶ月は確かに売上減が続くだろうが、じきに平常に戻るだろう。今は過渡期だね。あの放射能の騒動があった東日本大震災の時ですら、人の戻りは早かったから」。
 
事実、今回は世界的な感染症の流行だったため、外国人労働者が日本から減るということは少なかった。加えて、郊外や地方への人口移動はあくまで微増に留まる範囲であった。
 
総務省の発表によると2020年1月~2020年12月の転入超過数は3万人と、都内の人口は純増している。昨年と比べれば増加数こそ落ちてはいるが、東京は引き続き人が増え続けていると言える。
 
地方の若干の転入超過数の増加は、緊急事態宣言下に東京に行き控えている引越し待ちの影響もあり、一時的な現象だと見込まれている。単身世帯が住むワンルームは、そうした郊外転居の煽りを特に受けにくい。
 
消費が停滞し、行き場を失った投資マネーが投下された影響で株価が日々乱高下を繰り返す中、自分が所有する物件の家賃収入だけは毎月安定していた。不動産投資はやはり手堅い。一連の騒動を目の当たりにして私はそう確信した。
 
自分の経験を売る
 
「郊外に人が移動して、都心の不動産は暴落しているんじゃないの」。秋口になるとようやく販売実績も回復しつつある状態になったが、都心の物件を警戒する声も聞かれるようになった。
 
そこで私はこう答えるようにしている。「いえ、私も不動産をいくつも所有していますが、実際の入居状態と家賃相場を見てください。以前と変わりません。東京なら、場所と物件を吟味すればこれだけの収益を得ていくことが可能なのです」。
 
一般的に不動産投資と聞くと、危険な投資対象だと思われがちである。しかし、実際にはバブル期のように極端な値上がりこそ見込めないが、単身世帯に好まれる立地の良い物件を所有していれば、長期的には利益が出る仕組みになっている。
 
そう聞いても投資経験がない人は怪しむが、私の実際の入居率と家賃推移、毎年の利益率を見れば話は別だ。首を捻っていたお客様も数字を見ればいつの間にか前のめりになる。
 
結果的に、私は当初の予定通り中古ワンルームマンション販売と賃貸管理で正式に独立することになった。
 
採用する予定だった社員も想定通り付いて来てくれたが、業界自体がまだコロナショック以前に戻っていない上、前職の会社のバックアップがなくなったことにより、独立後の営業成績は販売数ゼロこそ出さないものの、当然ながら業界最下位からのスタートだ。
 
それでも自分には、自分もこの渦中に不動産大家だったという経験の武器がある。合わせて、物件の仕入れと目利きも自分で行えるようになったことも大きい。
 
良い物件は仕入れ値が下がりにくいため、一戸あたりの利益率が低い。不動産会社の多くは薄利多売状態を避けるため、利益率が高くなる物件をお勧めしがちだが、自分が不動産大家をしていることもあり、そうした物件は取り扱いたくなかった。
 
自分も大家として買いたいと思う物件、大家として受けたいと思う賃貸管理サービスを提供すること。この2点を起点に営業活動を続けていると、お客様の反応は明らかにこれまでとは違っていた。
 
武器さえあれば、あとは上がっていくだけ
 
この時期に独立するなんて大変ですねと言われることも多い。私はいつも学生時代から続けているマラソンのことを夢想する。どんなマラソン選手も初めはゼロからスタートするものだが、持久力と自分の体力を見誤らず、地道に登りつめていけばタイムも順位も順調に上がり続けてくれる。
 
逆に考えればトップになるまでは上昇し続けられるとも言える。虚勢をはるのではなく、本当にいい時期にいい形でスタートを切れたと思っている。あとは登っていくだけなのだから。
 
天田浩平(株式会社エイマックス代表取締役)
 
https://news.yahoo.co.jp/articles/0357d7281366985095c42adf391b01ba4583098d?page=1