マンションが売れなくなった本当の理由

2019年6月28日

 「昨年の7月以降、首都圏のマンションの販売が不調をきたし、売れ行きの鈍さが目立っている。富裕層、投資家が購入を控えている」と慎重な見方をするのは東京カンテイで長年、マンションの販売動向をウォッチしてきた井出武・上席主任研究員だ。



 その理由としては投資コストやリスクに見合わないほどマンションの価格が高くなり過ぎていることを挙げる。また先行きを見ると「消費増税、貿易摩擦などが予想され、買う側にとって今までは自分に関係ないと思っていたことがリスクと感じられるようになってきて、消費マインドにも影響しているのではないか」と分析している。

 

業界に激震!契約率は60%にとどまる

 マンションに関する販売データを見ると明らかにマイナスのものが多い。不動産経済研究所が発表した首都圏の5月のマンション市場動向によると、契約率は60%にとどまり、前年同月比より2.2ポイント、前月比でも4.3ポイントそれぞれ下げた。

 契約率が70%を割り込むと販売状況は良くないとされるが、60%程度まで下がるのは異例のことだとみている。超高層(20階以上)のタワーマンションは45.1%で前年同月(67.1%)を大きく下回った。昨年までは人気だったタワマンにも陰りが見られるようだ。

 同研究所が発表した2018年度(18年4月から19年3月まで)の首都圏のマンション販売実績を見ると、初月契約率は前年より6.8ポイント下落して62.0%で3年連続70%を割り込んでいる。販売在庫は19年3月末で8267戸、前年の6498戸より1769戸増えている。こうした数字を見ると、どうやら首都圏のマンションは供給過剰の状況になりつつあり、売れ残りが増加してきていると言える。

それでも価格は下がりにくい構造

 昨年の首都圏のマンションの平均取得価格は5927万円だった。販売の売れ行きが良くないのならば、価格を下げればよいと思うのだが、井出研究員によれば、そう簡単には下がらないという。なぜならば、建設作業員の人件費が上昇するなどコストが上がっているため、売る側はなかなか下げられないという。

 さらにリーマンショック以降にマンション業界の寡占化が進み、メジャーセブンと呼ばれるマンション大手7社の販売比率が高く、JV(ジョイント・ベンチャー)物件も多いため、値下げ競争に陥りにくい構造になっている。

 またマンション大手業者は「どこもオフィスビル、ホテルなども手掛けており、これが絶好調で利益を上げているため、マンションが多少売れ残ったからと言って、価格を下げて無理をして売る必要がない」という事業性に余裕がある。特に都心部のオフィスは空室率が少なく、新築オフィスがすぐに埋まる状況のため、マンション部門が多少悪くても会社全体としては増収増益状態にある。

 しかし、郊外物件や駅から遠いため売れ行きの悪いマンションでは、実質的な値下げになる家具付き住宅で販売することや、分譲での販売を諦めて賃貸住宅として貸し出し、どうしても売れ行きが悪い場合には別の業者に卸して損失を最小限に抑えることなども行われることがあるという。だが、これはあくまで例外的なようで、現状では大きな値崩れは起きていないようだ。

 

価格調整は必要

 しかし、首都圏のマンション価格は上がり過ぎて、6000万円前後の価格水準で買える人は限られている。中古マンションの価格も新築につられて高くなっている。マンションの売れ行きを回復するために井出研究員は「価格の調整が必要ではないか」と指摘する。

 ひとつの可能性として「最近、スーパーゼネコンが東京オリンピック後の仕事の確保を狙ってマンションを手掛けようという動きがある。このゼネコンがある程度価格を抑えたマンションを建設する新たな戦略を打ち出してくれれば、いまより割安なマンションが出てくるかもしれない」と大手ゼネコンがマンション建設に乗り出すことに期待している。

 

 

2人でローンのリスク

 数年前から一つの不動産物件を「パワーカップル」と呼ばれる夫婦2人が「ペア・ローン」という住宅ローン商品を利用して共有名義で購入するケースが増えているという。金融緩和で住宅ローン金利も下がったこともあって2人でローンを組んでも金利負担が重くないことと、「ペア・ローン」を利用すると2人ともに住宅ローン控除制度が受けられることでメッリトが高まったことが挙げられる。

 例えば夫が900万円、奥さんが700万円で夫婦合計で1600万円の住宅ローンを組めば、相当額のローン控除があるため、これがマンションの購入を引っ張る刺激剤になってきた。

 しかし、所得が伸びない現状では、2人でローンを組んだことが将来のリスクになる。夫婦どちらかの会社の業績が悪化して収入が減少したりすると、途端に住宅ローンの返済が滞ったりして返済計画が狂ってしまい、バラ色だったマンション生活が一変することになる。井出研究員は「先行きが見通せない世の中になったことで、こうしたローンリスクが以前よりも高まっているのではないか」とみており、住宅ローンはオーバーローンにならないよう注意する必要があると指摘する。

 

 

未体験の内需低迷

 景気の先行きについては「不透明感が強まっている状況では、高額の資金をつぎ込んでまでマンションを買おうという人が少なく、ディフェンシブな姿勢になっている」とみる。数年前までは首都圏中心部の億円以上する高級マンションを買い漁った中国人富裕層も現在は売る側に回っていると見られ、特に湾岸のタワマンの売りが増えているという。

 さらに「これまでは景気が落ち込んでも、高い所得層が下がったところで買ってくれたため回復してきたが、これからは、人口が減少し、モノを持たない層が増えているため、景気を回復させる原動力を欠いた状態になっている。このため、これからは今までとは異なる特異性を持った未経験な内需の低迷になるかもしれない」と警戒している。

 これまで日本経済は、割と短期間に不況から回復できたが、これからはその回復の原動力となるものが見つけにくい。かつては経済をけん引した団塊の世代も70歳を超える高齢者となり、多少の金融資産はあったとしても、経済を引っ張るほどのパワーは残っていない。

 しいて言えば、増加傾向が続くインバウンドの外国人観光客ぐらいだろう。2019年版の観光白書によれば、18年の外国人観光客の日本での消費額は初めて1兆円を超えたという。インバウンドの消費額は着実に増えてはいるが、これだけでは日本経済は維持できない。

 人口が減少する時代を迎える中で、安定したマンションの販売を維持するにはどうすべきか、真剣に考えるべき時に来ている。

 

 

中西 享 (経済ジャーナリスト)

 

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190628-00010000-wedge-bus_all&p=1