マンションの「買い時」は売り手に聞いても決してわからない

2017年8月3日

金融緩和の影響で、マンション価格は高くなった。東京都区部で2014年以前に購入した人のほとんどが、購入価格よりも値上がりしているはずだ。しかし、価格は2016年には横ばいとなり、そのうち下がるのではないかという漠然とした不安に駆られる人も増えた。

 自宅は個人の最も大きな資産であるから、マンション購入を考える人は「買い時」であるか否かを判断するための材料を探すが、そのとき出てくるのは「売れ行き」の話ばかりだ。これは購入する際の相談を販売側にしているという、矛盾を抱えているに等しい。それを解決するには、購入者側の情報を集約するしかない。それは、「購入者の、購入者による、購入者のための」市況把握になるかもしれない。

● 需要側の意識が反映されないまま 供給側の論理で売られるマンション

 マンションの供給戸数や契約率については、よくニュースになる。しかし、これは市場における供給側の行動と意識を推し図ることはできるが、需要側のそれは無視されている。実際の販売現場では、来場者の購入意思を確認しながら、倍率1倍になるように供給する戸数を決めている。つまり、契約率はこの10年、ほとんど70%前後で動かない。売れる分だけ供給しているのだから当たり前である。

 こうした現状にもかかわらず、「初月契約率が70%を割り込むと売れ行きが悪い」などと言ってもあまり意味がない。3000戸の供給×契約率67%=2000戸の契約戸数になるか、2500戸の供給×契約率80%=2000戸の契約戸数になるかは、売れ行きとしては同じになる。つまり、需要側の動向が供給を決めていると考えた方がいい。

● 本当の買い時を知るためには 購入者の「今の気持ち」を調べる

 我々スタイルアクトは、需要側の意識調査を四半期ごとに調査して発表している。マンション購入者20万人が会員となってきた「住まいサーフィン」を活用すると、その調査結果がわかる。調査はすでに37回目、9年に及んでいる。そこには供給側の論理では読み解けない購入者側の「買い時感」の風向きが見えている。

 その中から、マンション購入の際の参考になる3つのポイントを紹介しよう。
 
 まず、マンション価格が高いか安いかを聞き、それを指数化したものを見てみよう。回答者のうち、【価格が高い】から【価格が安い】を引いた値で、「割高判断指数」と名付けた。

 ◆図表1:割高判断指数

 このグラフから読み取れることは、こうだ。リーマンショック後、マンション価格の下落によって、この指数は20前後まで下がる。個人の年収は大きくは変わらないので、マンション価格が相対的に下がる中で手が届きやすい範囲にあった証拠である。

 その後、アベノミクスの3本の矢の1つ「金融緩和」は日銀の黒田総裁が就任した2013年3月から本格化する。緩和された資金は担保の取りやすい不動産に急速に流れ、価格は高騰する。これに応じて割高判断指数は上昇していく。

 指数は2015年10月に頂点に達するが、筆者はこのタイミングで、当連載において「マンション価格がいよいよ頭打ち!今ここで決めたい自宅の売買」という記事を執筆している。この記事では、半年以内に中古マンション価格が頭打ちになることを予想しており、それはほぼその通りになっている。

 その後の価格はおおよそ横ばいなので、この指数は高原状態を続けており、少なくとも住まいサーフィン会員の多くは物件ごとの適正時価を見ているか、価格水準を理解しているものと思われる。

次に、1年後にマンション価格が値上がりするかどうかを指数化したものを見よう。ここでも、【値上がり】から【値下がり】を引いている。この推移は以下のように非常にわかりやすい動きをしている。

 ◆図表2:1年後値上がり判断指数

 リーマンショック後、大幅に下がり、値下がり予想が増えたが、1年半後にはそれが終わり、ゼロ近辺で推移し続けていた。そこでアベノミクスが始まり、事態は一変する。このタイミングで、筆者は著書『マンションを今すぐ買いなさい』を発刊した。同著書で「2年後に25%新築価格が値上がりする」と書いたように、「金融緩和=資産インフレ」を理解した人たちはこぞってマンションを購入した。

 マンション価格は右肩上がりになり、2015年10月の潮目の変化を迎えるまで高い水準を続ける。潮目を察知してからは、急速に値上がり期待は失せて、今ではこの指数(値上がり-値下がり)はほぼゼロに近い水準に落ち着いている。「これ以上値上がりはしないだろうが、値下がるだけの材料も明確ではない」という判断だろう。

● 2015年10月以降は低迷 価格と「買い時感」は逆相関する

 これまで見てきた価格に対する判断が売れ行きに影響するためには、需要側の「今が買い時かどうか」という判断が重要になる。同調査の対象はモデルルームに通う人たちだが、彼らが諸手を挙げて「買い時」と思っていない実態が浮かび上がる。

 買い時判断(買い時-買い時でない)で見ると、価格水準の低かったアベノミクス前は価格上昇期待はなかったものの、買い時判断指数はおおよそ+40前後にあった。そして、アベノミクス直後の1年ほどは値上がり期待も大きく、+60前後に上昇する。その後は価格が上昇していく中で、買い時感は薄れていき、潮目となった2015年10月以降は連続して▲20前後で低迷することになる。

 ◆図表3:買い時判断指数

● 購入相談をする相手が売り手側の 販売員だけなのはおかしいこと

 これまで見てきたデータの相関をまとめると、「マンション価格と買い時判断」は密接に関連することが想定される。そこで、スタイルアクトが作成している首都圏の「新築マンション価格インデックス」と前述の「買い時判断指数」を1つのグラフにすると、以下のように逆相関していることがわかる。その相関係数は▲0.88なので、かなり連動していることになる。

 ◆図表4:首都圏新築マンション価格インデックスと買い時判断指数

 価格と買い時判断が逆相関するからこそ、価格と供給戸数は反比例する。価格が高くなると買える人が少なくなるからである。そう考えると、マンションの売れ行き判断は「分譲価格×供給戸数」で行った方がいいことになる。これはマンションの総売上高、つまり市場規模を表す。これを不動産経済研究所の「首都圏新築マンション市場動向」のデータで計算すると、以下のようになる。

・2015年上期/5256万円×18018戸=9470億円
・2016年上期/5686万円×14454戸=8219億円
・2017年上期/5884万円×14730戸=8667億円

 つまり、2015年と比較して2017年の市場は8.5%縮小しているが、昨年と比較すると5.5%増えており、「やや活気を取り戻しつつある」という判断になる。こうした供給実績データと購入者の意識調査は表裏一体であり、実態を多面的に把握することで今の立ち位置を正確に把握できる。

 自分1人で動かすことができない市場だからこそ、購入者側の横の繋がりが重要な示唆を与えるし、すでに購入した人たちの情報を引き継ぐことで今を客観的に把握することができる。少なくとも、モデルルームに行って横の繋がりができることはないであろう。マンション購入を考えている人は、「購入相談をする相手がいつも売り手側の販売員だけなのは、実はおかしいことだ」という認識に立った方がいいと思う。

 ネット上で情報交換をできる場として「住まいサーフィン」も参考にしながら、市況に敏感であることが価格変動リスクに備えることになるという現実を、常に意識しておこう。

 (スタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタント 沖有人)

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170803-00137347-diamond-bus_all&p=1