世界の有名ブランドが狙う中国の住宅設備「32兆円」市場

2018年7月20日

6月上旬、上海で住宅の水回り設備の国際見本市「キッチン&バスChina(KBC 2018)」が開かれた。



中国といえば、トイレなどの水回り環境に難があることは、一度でも訪ねたことのある人ならご存知のことだろう。上海でも、高層ビルが立ち並ぶ都市景観の威容には驚かされるが、一転、オフィスやレストランのトイレに入るとその落差に愕然とするという経験は、いまも変わらぬ日常だからだ。

フィンテック技術の人々の生活への浸透に顕著なように、都市生活が日増しに便利で快適になっていくのに対し、「水回り」は、いわば中国が見せたくない弱みだった。年間1億人を超える中国の人たちが海外旅行へ出かける時代だけに、彼らもそれを十分承知している。



なので、水回りの環境を良くしたいという思いはことのほか強い。「KBC 2018」の巨大な展示会場内は、そんな熱気にあふれていた。世界中から5662社もの企業が出展、業界関係者を含む10万7046人の来場者があったという。



浦東の上海新国際博覧中心の17もある巨大な展示場には、世界の有名ブランドが勢揃いしていた。それに加え、膨大な数の中国の国内企業もブースを構えていたのである。



中国の住宅設備業界の専門サイト「中装新網」によると、2016年の中国の住宅設備市場は1兆8900億元(約32兆円)で、前年比13.9%増だという。そんな途方もない数字がはじき出される背景には、広大な中国全土に続々と建設されるマンション群があることは容易に想像できる。

物件はスケルトンで購入



だが、この膨大な市場に世界が注目する理由はそれだけではない、以下のようなこの国特有の事情によるものだ。



いま、中国の若いカップルたちが最も関心を持っているのが自宅の内装だ。中国では結婚するとき、新郎が必ず新居を用意しなければならない。上海などの大都市圏ではすでにマンション開発も一段落し、中古物件市場も拡大しているが、不動産価格が日本をはるかに超えて高騰しているため、新郎と両親にとっては相当の重圧がかかる。



日本では内装付きのマンションを購入するのが普通なのだが、中国ではコンクリートむき出しのスケルトン物件をそのまま購入し、キッチンやトイレなどの水回り、リビング、寝室までの内装設計から施工までを、自分たちでやろうとするのが一般的だ。



世界最大の人口を持つ国の人たちが自分の家を持ち、特有の事情から、商材を直接消費者に売り込むことができるという以上、海外企業が放っておかないわけがないのである。

今回の見本市には、世界中の有名ブランドが大量に進出しており、日本からも業界大手であるLIXILグループやパナソニック、TOTOなどが出展していた。



なかでも水回り設備から窓やドア、インテリアなどの建材まで開発している総合メーカーのLIXILグループは、独自ブランドのLIXILとINAXに加えて、ここ数年でグループ入りしたドイツのシャワー製品に優れているGROHE、米国のAmerican StandardとそのラグジュアリーブランドであるDXVという5つのブランドを、それぞれ個別に展示するくらいの力の入れようだ。



さらに、LIXILグループは、上海市内にある国内外の住宅設備企業が出店する紅星美凱龍真北店に、初となるショールームを開設している。ターゲットは、大都市に住むファミリー層で、子供の成長に合わせたリフォームやこれまでの中国にはない新しいライフスタイルを求める人たち、郊外に戸建ての別荘を所有する富裕層などが含まれるという。

 

内装デザインのニーズが変化

LIXILグループの瀬戸欣哉CEOによると、「中国の富裕層は日本より分厚い層をなしており、高い技術と環境や安全性を配慮した日本商品に対するニーズは高まっている。中国ではエンドユーザーに直接働きかけることができるので、消費者に違いを知ってもらうためにショールームを出店する意義は高い」と話す。



シャワートイレに代表されるように、一般に住宅設備商材に関して、日本企業は機能面、欧米企業はデザイン性に定評があるが、同グループではすでに傘下に収めた欧米ブランドの利点を融合した商品群も登場させている。



たとえば、プッシュボタンひとつでシャワーの水圧を調整できる「スマートコントロール」というINAXの技術はGROHEの新製品に活かされている。「アジア市場は一般に高品質と見た目を重視する傾向があることから、こうした日欧のシナジー効果を期待する」とLIXIL浴室事業部の中川真グループリーダーは語る。

一方、中国の人たちの内装デザインに対するニーズが、「無印良品」に象徴されるようなシンプルモダンな嗜好に変わってきているという声もある。これまで中国の人たちは欧米の宮廷風の見かけゴージャスな内装をよしとしてきたところがあったが、実際には使い勝手がよくないうえ、ライフスタイルにもマッチしていないからだ。この傾向は、日本企業にとってもますますの追い風となりそうだ。



東京ビッグサイトの何倍もの大きさの見本市の規模もそうだが、世界中の住宅設備企業のショールームを集めた場所がここに限らず、上海にはいくつもあることには驚く。まさにグローバルな競争の渦中にあることを肌で感じざるを得ない。



もっとも、世界のブランドが勢揃いという環境は、消費者にとって好ましいことなのかはわからない。選択肢が多すぎるといえなくもないからだ。ショールームに並ぶ目もくらむような高級製品を目の前にして、中国の消費者たちは何を考えるのだろうか。

中村 正人

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