京急「下町」色を刷新、マンション開発の勝算

2018年9月27日

品川と横浜、三浦半島を結ぶ京浜急行電鉄は今年2月で創立120周年を迎えた。同社発祥の路線、大師線は現在、多摩川の南側の京急川崎―小島新田間(4.5km)を走る。4両編成の普通電車が往復する短い路線には、8両や12両の列車が時速120kmで快走する京急本線とは対照的な、のんびりとした時間が流れている。

大師線は、厄よけで知られる川崎大師平間寺への参拝客や、日本の高度成長期を支えた京浜工業地帯の工場群へ通う労働者らに長く親しまれてきた。近年、沿線の風景とともに、朝夕の乗客の流れに変化が見られるようになってきている。

■工場跡地にマンション続々


 京急川崎駅から1駅目の港町駅。駅メロディには美空ひばりの「港町十三番地」が採用され、歌碑や駅構内の音符の装飾とともに、かつてこの駅がレコード会社、日本コロムビアの工場の最寄りだったことを物語っている。駅名も開業当時は「コロムビア前駅」と称していた。その工場跡地に現在、高層マンション「リヴァリエ」がそびえる。A~C棟の3棟の総戸数は1400戸近くある。





 リヴァリエは京急電鉄が大和ハウス工業と開発し、2011年7月にA棟の販売を開始した。港町駅へ徒歩1分、京急川崎で快特に乗り換えた場合、品川まで13分(乗車所要時間のみ)、横浜までは9分(同)という「職住近接」が最大の売りだ。2017年6月に最終棟C棟の全住戸の引き渡しが終わった。

 京急電鉄は入居開始に合わせ、2013年に駅を改装してマンション側に改札口を新設。駅メロディもこのとき導入した。同社まち創造事業部の担当者は「駅施設と駅前の土地を一体的に開発できるのは鉄道会社ならではの強み」と胸を張る。購入層については「都心や横浜方面へ通勤する人もいれば、羽田空港が近いため、地元にある大手電機メーカーなどに勤める出張の多いビジネスマンもいる」と説明する。

港町駅の2017年度の1日平均乗降人員は8147人で、マンション販売の前の2011年度に比べて約2.4倍に増えた。「以前は京急川崎から小島新田方面へ通勤するのが利用者の流れだったが、いまは逆になっている」(同社)という。乗客の流れの変化を受け、京急川崎駅では大師線の降り口を本線に近い3番線に変更するなど動線の改善を図った。

このように大師線をはじめ京急沿線には、まとまった広さのある事業所跡地を活用して建てられたマンションが多い。同社グループが販売にかかわった物件を例にとっても、東門前駅の「フォレシアム」(777戸)は小松製作所の工場、京急鶴見駅の「オーベルグランディオ横浜鶴見」(553戸)は千代田化工建設の本社と事務所、といった具合だ。

 京浜工業地帯の動脈のひとつだった同社沿線ならではの光景で、かつて通勤の目的地だった駅が、出発地の役割に変わってきている。

■「都心の南下」待ち構え攻勢




 京急が都心の玄関口とする品川駅周辺は、羽田空港や東海道新幹線への好アクセスを武器にビジネスの拠点とするには打って付けのエリアだ。JR東日本だけでみても品川駅の2017年度の乗車人員は37万8566人と渋谷駅を上回る。2020年にはJRの新駅、2027年にはリニア中央新幹線の開業が予定されており、オフィスを構える企業が増えると予想されている。





 JR東日本が9月25日に発表した「品川開発プロジェクト」(第1期)の概要によると、品川新駅(仮称)を中心とする約7万2000㎡の広大な土地にオフィスや住居、ホテルなどが入る4つの高層ビルを建設。外国人就業者のニーズに対応した居住施設や文化施設などを整えることにより「国際ビジネス交流拠点」として一体的に整備する計画だ。

 品川エリアに約6万㎡の土地を所有する京急グループも「都心が南下してくる」とこの好機を待ち構える。品川駅の地平化(2面4線)や踏切の解消、現在ホテルがある西口地区の整備など、同駅を核に大規模な再開発を推進していく考えだ。

 こうした将来を見据え、現在、同エリアを取り巻く地域で手掛けている大規模マンションが「プライムパークス品川シーサイド」だ。「ザ・タワー」(817戸)と「ザ・レジデンス」(335戸)の2棟で構成する。同社は住宅事業ブランド「PRIME」のフラッグシップ(旗艦)と位置づけている。

ザ・タワーの場合、りんかい線品川シーサイドから徒歩3分の立地で、渋谷や新宿へのアクセスの良さがセールスポイントだ。他方、特急やエアポート急行が停車する京急の青物横丁駅へは徒歩9分で、直通する都営浅草線沿線や、羽田空港へも電車1本で行ける。旧東海道品川宿の風情が残る落ち着いた住環境もファミリー層に好まれやすく、売れ行きは好調という。




 かつて京急電鉄の不動産事業と言えば、横浜市南部や横須賀市での宅地開発がメインだった。不動産分野での業務経験がある同社社員は「ウチもリヴァリエのような大規模な物件を扱えるようになるとは。大規模なマンション開発は当初は素人軍団でやっていたが、いまは経験を積んだ精鋭部隊が手掛けている」とこの数年での進歩を感慨深く振り返る。

■「地に足の着いた方向けに」




 同社は2020年度までの中期経営計画のなかで「沿線および都心部を中心に、賃貸事業・マンション分譲事業を展開し、交通事業に並ぶ柱へと成長させる」との目標を掲げている。分譲マンションは年間400戸程度の供給を目指す。





 2019年3月期の業績予想によると、不動産事業の売上高は大規模マンションの販売などが寄与し、前期比41.6%増の666億円となる見通し。営業利益は66億円と、三浦半島エリアの分譲土地評価損を計上した前期(16億円の赤字)から大幅に改善すると見込んでいる。

 京急沿線は、新橋や日本橋といったオフィス街に浅草線直通でアクセスできるうえ、新幹線や飛行機の利用にもアドバンテージがある。しかしながら、不動産事業ではエリアのブランド力が他社線に比べて弱いという面が否めない。

 まち創造事業部の担当者も「京急川崎と武蔵小杉、上大岡と戸塚では、どちらも後者が派手なイメージで軍配が上がる」と認める。だが「派手さがない分、モノのいい物件が他社沿線より手が届きやすいため、背伸びせず、地に足のついた方々が購入してくれている。いたずらにブランド力にこだわるのでなく、顧客の生活目線に立った開発をしていきたい」と独自路線に自信をみせている。

 

 

品川の再開発による都心の南下をにらみ、京急沿線でのマンション開発の動きは北上しつつある。この流れに乗り、京急の鉄道と不動産事業も相乗効果を生み出しながら進む「2つの車輪」になるか、今後が正念場だ。

橋村 季真 :東洋経済 記者

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