外国人観光客に人気だが…京都で「民泊撤退」が激増する背景

2019年8月30日

本記事では、伝統的な京町家を宿泊施設して保存・再生する事業を数多く手がけてきた児玉舟氏の著書、『最強の京都「町家」投資』から一部を抜粋し、投資先としての京都「町家」の魅力と具体的な運営方法について解説します。今回は、京都の民泊撤退急増の背景等について見ていきます。

一度取り壊された町家が「再建」されることはない⁉

近年は外国人観光客が注目するなど、町家の価値は再評価されつつあります。とはいえ、若い世代では町家居住の承継に二の足を踏んでいる人が多いというのが実際のところです。新しいマンションやハウスメーカーが建てる住宅に比べ、便利で快適とは言えない町家暮らしを敬遠する人は多く、その結果、取り壊される町家が増加しているのです。

町家の取り壊しについてはもう一つ、相続を巡る問題も無視できません。一昔前までは長子相続が一般的だったため、親の持ち家だった町家の相続を巡って、相続人である子どもたちの考えが分かれることはほとんどありませんでした。

ところが最近はそんな事情が変わり、兄弟が同じ相続権を行使するケースが増えています。京都市内は地価が高く、町家には大きな資産価値があります。そのため、子どものうち一人だけが承継してそこで生活するのは不公平だと考える人が少なくありません。町家以外にも一定以上の相続財産があれば、それらを割り振りすることで、公平な相続を実現できますが、そうでなければ分割しやすいよう町家を売却して現金化することになります。

町家の価値を評価する人がたくさんいるのなら、一度失われたとしても、再度建築すればいいのでは……と考える人がいるかもしれませんが、取り壊された町家が再建されることはありません。町家の多くは1950年の建築基準法施行以前に建てられたものであり、現行の同法には準じていないためです。現在の基準では、同じ構造、間取り、部材、建ぺい率の建物を建てることができないため、滅失した町家は消えゆくのみです。

ですから、町家に投資するなら、まだ残存しているものが多い今しかありません。これまでは、購入しても自分が住む以外には使い道がありませんでしたが、宿泊施設に転用できる今なら、購入して活用することも可能です。

町家のストックが大量に放出されている現在は、京まち宿に投資する絶好のタイミングです。インバウンド需要が盛り上がり、宿泊事情がひっ迫するなか、町家の宿泊施設化に官民挙げての支援が集まるなど、投資を巡る環境には追い風も吹いています。

しばらくの間「京都の客室不足」が続く理由

近年、法的にはグレーゾーンに位置する存在でありながら、観光需要が急増する京都で宿泊施設の不足を補ってきたのは民泊でした。ところが、京都市内における民泊は今後、激減すると予想されています。

いわゆる民泊新法による規制に加え、新法の施行を機に京都市が施行するさらに厳しい条例を、現在運営しているほとんどの民泊施設はクリアできないと考えらているからです。規制に準じて民泊を経営するためには、新たな設備の導入やオペレーションを行う人材の確保が必要です。

既存の民泊施設の多くは法的な規制を免れ、収益を上げてきました。コストを負担し人手を確保すれば、多くの施設は赤字に転落するでしょう。

かといって、違法状態で経営を継続することはもはや不可能です。Airbnbなどの仲介サイトも違法民泊の登録を認めない方向で動いており、今後、自治体への届け出がない民泊施設は集客が非常に難しくなると考えられます。

儲からないならやめようと決断するオーナーはかなりの数にのぼると見られており、今後も当分は京都の客室不足は続くと考えられています。町家の宿泊施設化は、そんな宿泊施設不足をカバーする最良の手段なのです。

 

京都市が取り組む「町家の活用・保全」のプランとは

町家を重要な観光資源と考える京都市では、保全への取り組みが一昔前から連綿と続けられてきました。もともと町家の保全・再生を意識した活動が始まったのは1981年度です。当時急増していたマンションにより、地域コミュニティの崩壊が危惧されたことから町家への関心が高まり、1983年度にかけて「新しい都市住宅等の調査研究」が行われました。

その後、2000年には「京町家再生プラン」が策定され、実施すべき施策として「アクションプラン21」が掲げられました。近年も町家の維持に要する所有者の負担を軽減するため、リノベーションに際して建築基準法の適用外とし、建ぺい率を緩和する制度が設けられています。

さらに2017年には、町家の解体に際しては1年以上前に届出をするよう求める条例が可決されました。所有者が解体を決意しても、1年間は工事に取りかかれないため、その間に買手や利用者が見つかる可能性が高まるというものです。同条例では、違反者には過料の罰則が設けられており、町家保全にかける京都市の強い意気込みが感じられます。

京都市ではほかにも、地域に根ざした事業を展開する「まちの不動産屋さん」を「京都市地域の空き家相談員」に指定する制度も設けています。空き家の所有者等から相談を受けた事業者が、無料でアドバイスをする仕組みですが、事業者と所有者をつなぐ仕組みの一つとして、今後の活用が期待されます。私の会社もその一員に選ばれており、所有者等から相談があった場合には、宿泊施設への転用を含め、相談者の事情や希望に合う対応策をアドバイスしています。

町家を住まいとして再生するには多くの問題があるため、それ以外の用途で利用しようという動きが活発化しています。例えば、ロハス(※)を志向する人のなかには、町家をさまざまな活動の場として利用したいと考える人が多く、カフェやレストラン、ショップなどのほか、シェアオフィスやギャラリー、芸術家の活動拠点などとして活用しているケースも見られます。

このように、町家を活用しながら保全する積極的な取り組みは、企業にとっても新たなマーケットに訴求できるなどのメリットが大きく、顧客を含め「三方よし」が成立する理想的な活用方法といえるでしょう。

※ LOHAS : “Lifestyle Of Health and Sustainability”の略。地球環境保全と健康な生活を優先するライフスタイルを指す。

 

「旅館業法の改正」で町家の宿泊施設活用がスムーズに

宿泊施設の拡充に対する取り組みは法律面でも進められています。国内で許可を受けて宿泊業を営む際には、施設の規模や設備について旅館業法の規定をクリアしなければなりません。しかし、2018年1月の旅館業法の改正では、町家を含む古民家を宿泊施設として利用しやすいよう、多くの規定が撤廃・緩和されました。以下、改正点を簡単に挙げておきます。

【施設の規模】

これまでホテルは10室以上、旅館は5室以上という客室数の規定がありました。新たな規定ではそれぞれ1室から営業が可能となっており、1室単位で運営される宿泊施設でも、ホテルや旅館としての登録が可能です。

【部屋の広さ】

従来は営業形態により、ホテルとして営業する施設の洋室は9㎡以上、旅館の和室は7㎡以上とする規定がありました。改正後は一律7㎡以上とされており、ベッドを置く場合のみ、9㎡以上と規定されています。

【フロントの有無】

旅館業法ではこれまで、宿泊の受付業務を行うフロントの設置が必須とされてきました。改正後は、旅券や宿泊者の顔をWebカメラで確認できるなど、一定の条件を満たすICT設備を導入すれば、フロント設置の必要がなくなります。1軒ごとに独立した施設を複数管理する場合、各施設にフロントを設けるのは現実的ではありません。ICTでフロント業務を代替できれば、仕事の効率が飛躍的に高まります。

【集中管理】

フロントの撤廃を認める代わりに設けられたのが、「宿泊客に緊急の用があった場合、10分以内にスタッフが駆けつけられること」という管理規定です。ドミナント戦略を採用して集約的な営業を行えば、エリアごとに一つの管理施設を置くだけで応対が可能となります。

 

児玉 舟

 

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190830-00022879-gonline-bus_all&p=1