渋谷駅周辺のオフィス賃料が急騰したワケ

2018年10月12日

渋谷駅前の再開発に伴い駅周辺の新築オフィスビルの家賃が急騰している。米国のIT大手グーグルの日本法人グーグル・ジャパンが、9月13日にオープンした駅直結の複合施設「渋谷ストリーム(SHIBUYA STREAM)」に来年秋に入居することが決まってから、家賃の値上がりに拍車が掛かっている。渋谷駅周辺にはIT関連のベンチャー企業が多く集まっており、この地区にオフィスを構えることがベンチャー企業のファッションになっている。

新築で坪5万円

渋谷駅前は数年前から東京急行電鉄が中心となって再開発がスタートし、新築ビルがいくつも竣工している。2012年に34階建ての「渋谷ヒカリエ」が開業、ディー・エヌ・エー(DeNA)がこの中に本社を移転した。その後、スタートアップしたIT関連企業が駅周辺に集まっていたが、グーグルの日本法人が引っ越してくることが明らかになった昨年11月以降からこの動きが加速している。



 この結果、新築ビルの賃料が上昇、平均でも月額賃料が坪3万円している。立地条件の良いオフィスはさらに高く、坪5万円以上もするところも出ているという。となると10坪(33平方メートル)の小さな部屋でも月額家賃が50万円もする計算になる。実際にはこれに共益費分が加算される。それでも渋谷駅周辺の新築ビルに入りたいというテナントもいるようで、不動産の専門家は「オフィスの家賃に『グーグル効果』が現れているのではないか。ベンチャー企業にとって家賃が高いのは負担になるが、この地域にオフィスを構えることがステイタスにつながると考えているようだ」とみている。



 東京のオフィス家賃に詳しい三鬼商事によると、ビジネスの盛んな都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の8月の平均月額家賃は坪2万291円(新築は2万8772円、既存は2万42円)で、平均賃料は56カ月連続で上昇している。同月の平均空室率は2・45%で前月比より0.13ポイント下がっており、1年前からほぼ一貫して下がり続けている。都心では再開発が盛んに行われているが、どの新築ビルも完成前にはほぼ埋まっている状況が続いている。

「里帰り」を歓迎

グーグルの日本法人は01年に日本法人を設立した時は渋谷駅から歩いて5分の所にあるセルリアンタワーの中に入っていた。その後、オフィスが手狭になり10年に港区の「六本木ヒルズ」に移転していた。グーグルは「渋谷ストリーム」の14階から35階までの全フロアを使う予定で、現在の社員数約1300人の倍以上収容できる広さがあるという。このビルを拠点に日本での事業展開を拡大させる計画で、文字通りITビジネスの新たな拠点になりそうだ。



 駅前再開発の事業主体である東京急行電鉄の高橋和夫社長は「渋谷ストリーム」のオープンの際に「グーグル日本が渋谷に戻って来ることで、クリエイティブコンテンツ産業が日本一集積する渋谷の街全体でさらなるイノベーションの創出や、人的交流の起爆剤になることを期待している」と話し、グーグルの「里帰り」を歓迎している。

もともとこの地区はベンチャー企業が多く、ビルオーナーの中には「ベンチャーが出世して稼げるようになるまでの間は家賃ただで構わない」という奇特な人もいたりする。設立して間もないベンチャーが混在しているビルが多数あるなどして、ITエンジニアにとっては関連情報を手軽に得ることができるため、仕事のしやすい地区になっていた。



 だが、家賃がこれほどまでに高騰すると、家賃の安い地区に脱出するベンチャーが出るのではないか、家賃の値上がりが影響してベンチャーの本来の目的である開発の研究費が削られるのではないかという心配の声も聞こえてくる。

「ビットバレー」再び

この地区一帯は、1990年代半ばから2000年代初めにかけて、サイバーエージェント、DeNAなどのITベンチャー企業の進出が相次ぎ、グーグルだけでなく、アマゾンも渋谷に本社を置いていた。ベンチャー企業が集まっていたことから当時の渋谷は、米国サンフランシスコ郊外の「シリコンバレー」になぞらえて「ビットバレー」と呼ばれた時期があった。しかし、10年以降は渋谷駅周辺のオフィスが手狭になったことや、家賃が高くなり過ぎたことで、IT企業が渋谷から出て五反田や六本木に分散し、この数年は「ビットバレー」の名称は消滅しかかっていた。



 ところが、グーグルが戻ってくることになり、「ビットバレー」の復活を目指す動きが活発化している。9月10日には渋谷区文化総合センターで、サイバーエージェント、GMOインターネット、DeNA、ミクシィ、長谷部健渋谷区長などが参加してテックカンファレンス「「SHIBUYA BIT VALLEY 2018」が開催され、グーグルの本社が戻ってくるのを機に、渋谷駅前地区をITベンチャー企業が集積した街にするにはどうしたらいいかを話し合った。駅前再開発の事業主体である東急電鉄も、渋谷がエンタテイメントシティになることを期待しており、関係者は「グーグル効果」がどこまで続くか注視している。

五反田にライバル出現

渋谷駅前だけにベンチャー企業が集まっているのかと思うと、そうではない動きも出ている。五反田を本拠地とするベンチャー企業と品川区が協定を結び、スタートアップコミュニティーの発展を目指す一般社団法人組織「五反田バレー」が7月25日に設立され、クラウド会計ソフトで急成長しているfreeeなど6社が参画した。この地区には既に30社以上のベンチャーが集積していると言われ、渋谷の「ビットバレー」のライバルになるかもしれない「五反田バレー」が形成されつつあるという見方がある。



 五反田は渋谷や六本木に比べて賃料が2~3割安いと言われ、東海道新幹線が発着する品川駅や羽田空港に近いため交通の便が良いことなどから、立地条件の面からも五反田の評価が高まっている。当日は協定調印式に参加した濱野健品川区長は「『品川区の五反田』ではなく、『日本の五反田』と呼ばれるように支援していきたい」と述べ、五反田をベンチャーの拠点としてアピールしたい方針だ。



 さらに六本木には象徴的な「六本木ヒルズ」にアップル・ジャパンが入居しており、ベンチャー企業にとっては魅力ある場所になっている。このため、渋谷駅前の高い家賃のオフィスに入居するからには、それ相応のメリットがなければベンチャー企業といえども、他の場所に移転する可能性もある。その意味からも、オフィスの家賃上昇が今後どう変化するか注目する必要がある。

中西 享 (経済ジャーナリスト)

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181012-00010003-wedge-soci&p=1