選手村マンションは「パラ仕様」 車いすで楽々出入り、超高齢社会の標準に?

2018年12月7日

五輪・パラリンピックの選手村を改修して東京都中央区に2024年完成するマンション「HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)」。もともとパラリンピアンが使いやすいように設計されたため、通路幅やスロープの勾配などのバリアフリーは従来のマンションに比べてはるかに徹底している。超高齢化が進む日本において、マンションの新しい標準となる可能性がある。

車いすに乗って外出するケースで、従来のマンションと比べてみたい。ちなみに日本で使われている標準的な車いすの幅は60センチ前後、電動と手動のいずれの場合も操作するには70センチ以上の幅が必要だ。

まず玄関のドアを開けると、各戸をつなぐ共用廊下に出る。ハルミフラッグの廊下幅は1メートル50センチ。大会組織委員会が選手村などの設計のために作成した「アクセシビリティ・ガイドライン」によれば、車いすが歩行者とすれ違える広さだ。廊下の途中で忘れ物に気付いても、その場で旋回して向きを変えられる。

一方、通常のマンションの廊下幅は1メートル20センチ。横向きになった歩行者とぎりぎりすれ違える広さしかなく、もしつえをついた高齢者が向こうから歩いてきたら、車いすの人はそのまま前進するのをためらうだろう。

エレベーターが正方形なわけ

 次はエレベーターだ。ハルミフラッグの場合、共用廊下から独立したエレベーターホールが各階に設けられているため、乗り降りする人で混雑する心配は少ない。それに対し、通常のマンションは共用廊下がそのままエレベーターホールになっていることが多く、スペースも狭いため、車いすが立ち往生する恐れがある。



 エレベーターの大きさや形状もポイントだ。ハルミフラッグには13人乗りと17人乗りの2基が並んである。それぞれ具体的な寸法は明らかでないが、17人乗りという大きさはマンションでは珍しい。さらに開発を担う中心的事業者である三井不動産レジデンシャルによれば、「正方形に近い形のため車いすで使いやすい」という。



 それは通常のマンションを思い浮かべると分かりやすい。たいていのエレベーターは縦に細長い形になっている。急病人を運ぶ担架をスムーズに入れるためだが、車いすにとっては非常に不便だ。最初にエレベーターに乗り込むと、降りるときに後から乗ってきた人にどいてもらわなければならいし、逆に後から乗ると入り口をふさいでしまう。

介助者なしでスロープ上り下り

 エレベーターで1階に到着した後は、スロープを使って建物の外に出る。ハルミフラッグの勾配は1/20(5%)以下。高低差が10センチとすると、水平方向の距離は2メートル以上になる。個人差があるので一概にはいいにくいが、介助者がいなくても手動車いすで上り下りできる。

それに対し日本のバリアフリー法は1/12(8.3%)と定めており、多くのマンションはこれに準拠している。10センチの高低差に対して、水平方向の距離は1メートル20センチだ。腕の力が弱い人の場合は介助者が必要となり、一人で外出するのは難しい。



 このようにハルミフラッグは通路幅、エレベーターの形状、スロープの勾配ともに、従来のマンションに比べて規格外といえる。「通常のマンション開発の場合、これまでの基準を大きく逸脱するのは難しい。五輪・パラリンピックの選手村という所与の条件があったから踏み込めた」と三井不動産レジデンシャルの担当者は話す。



 国際オリンピック委員会(IOC)と国際パラリンピック委員会(IPC)は選手村の仕様について、細かな基準を設けている。「選手村として使ってもらえるように計画された」(三井不動産レジデンシャルの藤林清隆社長)のがハルミフラッグだ。仮使用という形で選手村に供され、その後の改修工事を経て、新築物件として購入者に引き渡される。

立地・広さ・価格だけでいいのか

 結果的にハルミフラッグは、日本のマンション業界に大きなインパクトを与える可能性がある。



 これまで日本のマンション業界は立地、広さ、価格の3つを最も重視してきた。限られたスペースを有効に活用するため、バリアフリーは法令の範囲で最小限にとどめてきたのが実情だ。たとえば共用廊下を広くとるより、その分、各戸の専有部分を大きくする方が優先される。



 それは入居者が求めてきたことでもある。「モデルルームでお客さんと話していても、買うかどうかの判断材料は駅から歩いて何分で、坪あたりいくらかだけ。バリアフリーはほとんど注目されない」と、ある不動産会社の幹部は明かす。



 だが日本が世界にも例をみない超高齢化社会になると、様相はがらりと変わる。「長く住むにはバリアフリーが欠かせない。若いときには気付かない不便さが、年をとると身に染みて分かってくる」。車いすで使いやすい住宅づくりに長年取り組んできた建築士の吉田紗栄子さん(NPO法人・高齢社会の住まいをつくる会理事長)は、車いすに乗る人を「水先案内人」と表現する。

三井不動産レジデンシャルも「車いすで使いやすいマンションは、ベビーカーや小さい子供、お年寄りなどすべての人にとって暮らしやすいはず」と期待する。



 もっとも「規格外」のバリアフリーが入居者のニーズに合致するかどうかは、フタを開けてみないと分からない。たとえばスロープの勾配を緩やかにした結果、移動距離が長くなって不便と感じる人がいる可能性もある。一方、共用廊下の幅は1メートル50センチだが、車いす同士ですれ違うには1メートル80センチは必要だ。



 「我々にとって初めての経験。マンションを引き渡した後も入居者の声を真摯に聞いて、今後のマンション開発に生かしたい」。三井不動産レジデンシャルの担当者はそう言葉に力を込めた。



(高橋圭介、山根昭)

<ハルミフラッグとは>

 2020年東京五輪・パラリンピックの選手村を大会後に改修して、マンション23棟、商業施設1棟からなる街を開発する。三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、野村不動産、住友不動産、東急不動産東京建物など11社が特定建築者として参加。敷地面積は約13万4000平方メートル。マンション戸数は5632で、うち分譲が4145、賃貸が1487。19年春にモデルルームを公開し、5月下旬に発売する。入居開始は選手村を改修する21の中層棟が23年春、大会後に新設する2つのタワー棟が24年春の予定。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181207-00010003-nikkeisty-life&p=1